「国際刑事裁判所ってなんだろう?~赤根智子所長に聞いてみよう~」当日質問① ICCの制度一般についての質問

「国際刑事裁判所ってなんだろう?~赤根智子所長に聞いてみよう~」では、当日参加者のみなさまから、たくさんのご質問が寄せられ、第3部Q&Aの時間内では回答しきれないくらいでした。

答えきれなかった質問を分類し、赤根智子所長にもご協力いただき、回答を整理しました。

まずは、ICCやローマ規程の制度に関する質問です。

・ICCではどの法律に基づいて裁判しているのですか?

・ICCは、どうやって作られた法律に基づいて人を裁いていますか?

・ICCはどのような法律に基づいて裁いているのでしょうか?準拠法などでしょうか?

・ICCはどこの国の法律に沿って犯罪を裁いているのですか?

・ローマ規程についてあまり詳しく知らないので、詳しく知りたいとおもいました。

ICCは、「ローマ規程」という国際条約に基づいて設立された裁判所です。

このローマ規程が、ICCにとってのすべての基礎です。ICCという組織自体の成り立ちもローマ規程が決めていますし、ICCがどんな犯罪を裁くのか、どのように手続を進めるのか、どんな権限を持つのかなど、すべての基本ルールを定めているのもローマ規程です。

ローマ規定の条文は、条約集にも収録されていますし、インターネットでも日本語訳を読むことができます。ぜひ読んでみてください。

・ICCにおいて国家指導者が責任を問われる場合、「命令を下した者」と「現場で実行した者」の法的責任はどう区別されるのでしょうか?

・国際刑事裁判所での刑罰は各国の刑罰よりも重くなっていますか?

関与形式に関しては、ローマ規程25条3項と28条にその規定があります。25条3項(a)には、①直接的に②他者とともに③他者を通じて罪を犯した者が、その責任を負うこと(正犯)のほか、同項(b)には、命令等した者などが責任を負うこと(共犯の一形式)も規定されています。実際には軍隊の指揮官の命令は、その部下によってほぼ自動的に遂行されるものですので、命令者自体は(a)の他者を通じて犯罪を遂行した正犯として処罰の対象になる場合もありえますし、あるいは(b)の命令した者として処罰の対象になる場合もありえます(どちらになるかは、具体的な事案によります)。

一般の兵士など直接的に犯罪を行った者は(a)の正犯として扱われることになりますが、ICCでは、その犯罪にもっとも大きな責任を負う者の刑事責任を追及しようとする場合が多いため、一兵卒を処罰した経験はありません(むしろ、一兵卒については、補完性の原則に基づいて各国で処罰することが望ましいとの考え方に基づき、手を付けないことが多いです。)

ICCの刑罰の種類は、拘禁刑、罰金刑と没収です(ローマ規程77条1、2項)。拘禁刑の場合は終身刑、あるいは30年以下の拘禁刑です。今までの例では、30年の拘禁刑に処せられた者が一名いて、それが一番重い刑罰です。

各国の法制度は様々なので、一概にどちらが重いかは言えませんが、ICCより重い刑を科す国もあるようです。

・ローマ規程以外の国(ローマ規程を締結していない国)がICCの決定に従わなければいけないときはどんなときですか?

ローマ規程を批准していない国がICCの決定に従わねばならない、ということは、ありません。例えば、プーチン大統領にはICCの逮捕状が出されています。しかし、ロシアという国そのものが、彼をICCに差し出す義務を負うわけではありません。

プーチン大統領がICCの締約国に行った場合、その締約国には、プーチン大統領をICCに引き渡す義務が生じます。しかし、これは、ロシアに義務が生じているわけではありません。

・締約国ではないロシアのプーチンに逮捕状を出すことには、どのような根拠があるのでしょうか。

ICCの管轄権を認めたウクライナにおける戦争犯罪に関しては、ICCに管轄権があります。その管轄権行使のためのトリガーが発動されれば、その領域内で戦争犯罪を犯した人に関しては(その人の国籍が締約国でないとしても)、これをICCが認めるだけの事実と証拠があれば、ICCはプーチン大統領に逮捕状を出すことができます。これは、ローマ規程12条、13条などに明記されています。

プーチン大統領に対する逮捕状は、このような法的根拠に基づいて行われています。

・ミャンマーでは国軍と民主派・民族武装組織の間で戦闘が続いています。ミン・アウン・フライン国軍司令官が民間人を狙った攻撃を行っているとの報道を目にし、ミャンマー人の友人もいるため、この状況に心が痛んでいます。ミャンマーはICC非締約国ですが、こうした状況に対してICCが介入する可能性はありますか?

ミャンマー国内におけるミャンマー人同士の内戦に関しては、ICCは管轄権を持ちません。そのため、ICCが捜査することはできません。これが原則です。

例外として、ミャンマーがICCの管轄権を受け入れるか、国連安保理がミャンマーの事態をICCに付託すれば、捜査は可能になります。もっとも、今のところ、現実的にはそのようなことが起きる状況にはないようです。ただし、ミャンマーの隣国バングラディシュが締約国であり、ミャンマー国内に端を発した犯罪であっても犯罪の一部がバングラディシュで行われた可能性のある犯罪についてはICCの管轄権が及ぶことから、ICCの検察局は、予審の許可(ローマ規程15条4項に基づくもの)を得て捜査を開始し、ミャンマー人に対する逮捕状請求を行うなどしています。

・国際刑事裁判所において、ローマ規程締約国以外の国にも拘束力を持たせることはできないのか、またそうするにはどのような手続や取組みが必要か知りたいです。

仮にこのようなことを検討するのであれば、ICCの締約国会議によるローマ規程の改正によらなければなりません。しかし、ローマ規程の改正はかなり難しいのが現状です。また、今までの国際法の見解からすれば、現在のところ、このような改正がなされる見込みは低いと思われます。

・逮捕、予審、裁判手続と判決までの長期間、被告人の身柄は拘束されているのですか?

ローマ規程によれば、途中で身柄を釈放することは法律的には可能です(ローマ規程60条参照)。もっとも、被疑者、被告人が海外の人間であり、釈放された後に裁判に出頭する可能性が低いことから、釈放されることはまれです。

また、裁判中に身柄を釈放した例もあるのですが、その後被告人が不可解な死を遂げた事例もあるなど、裁判手続途中での釈放には相当慎重であるべきという事実上の問題もあります。

さらに、逮捕されずに在宅で裁判された例もあるのですが、それらの事例は、全てその後裁判不能になってしまいました(証人が消えたり、不出頭となり、事実上裁判続行ができなくなったのです)。

したがって、被疑者・被告人が長期に拘禁されている例がほとんどです。このことからも、裁判手続等の迅速化が求められます。

・ICCでの身柄拘束は具体的にどのようになされるものですか?おそらく日本の拘置所での拘束とは違うのだと思いますが。

ICCは、オランダから拘置所の一角を借り受けて運用しています。拘置所ですので、日本のそれと大きな違いはありませんが、①外部からの物の持ち込みなどを警戒してセキュリティは極めて厳しい、②拘置所内では拘禁者にかなりの自由が認められており、施設内では自由に歩き回れる時間が長く、個室に入れられている時間は夜と看守の交代時間のみ、と聞いています。食事なども自分で調理することも許されています。家族との面会などはなかなか実現できない(多くはアフリカにいるから)ですが、電話やオンラインでの面会なども許されます。これらの点は、日本の拘置所とは異なります。

・ICCが逮捕状を発付したタリバン政権の幹部が、ハーグに移送される見込みはありますか。

・今年アフガニスタンの、タリバン政権幹部らに逮捕状が発付されたが、彼らの身柄が拘束される兆しは見えているのか。

これは、なんとも言えないです。ICCは、鋭意努力しています。

・ICCの裁判における弁護人の制度を教えてください。弁護人になれるのは、どんな人ですか?弁護人はどのように選ばれるのですか?

弁護人に関しては、被疑者、被告人が自由に選べるとともに、弁護人がついていない場合には、ICCが弁護人リスト(主任弁護人のリストと主任にはなれないもののそのアソシエイトとはなれる人のリスト)を準備して、身柄がハーグに連れてこられた直後に選んでもらう仕組みになっています。

弁護人に関しては、各人の申し出に従い、刑事分野の経験、国際分野の経験など(概ね10年以上の経験)を加味して、主任弁護人としてのリストに載せるかどうかを審査しています。

詳細はICCのWebサイトを見てください。

日本人の弁護士では、現在、2人がリストに載っています。日本人の弁護士で刑事事件を経験しており、国際的な経験もあれば、リストに掲載される資格はあると思うので、われこそはと思う人は挑戦してみてほしいです。ただし、英語かフランス語での弁護活動が可能であることが大前提です。

・裁判において被害者が証人となる際、身元の秘匿や心理的なケアなど、どのような保護措置が実際に取られていますか。

これについては、ICCの書記局に被害者・証人セクションがあり、心理的なケア、出頭時の世話、二次被害の防止のほか、被害者・証人保護の実施など(場合によっては家族ごと海外に移住させ、経済的援助までする場合などを含む)、細やかな対応をしています。

ICCは、この分野の実務に関しては、経験に基づき、かなり進んだ対応ができているといえます。また、検察局は証人の調書におけるマスキングなどを通じて身元の秘匿などに万全を期しています。弁護権の確保との間で争いになる場合には裁判官がこれに関与し、最終的には決定を出して秘匿の事項や内容を決めています。

・ICCでの審理は当事者主義か職権主義のいずれでしょうか。

これは一言では言えません。両者が混合的、あるいは妥協的な制度と言えるでしょう。

たとえば、予審、公判のやり方はかなり当事者主義的ですが、しかし、職権による証拠の取調べ等もできますし、被害者対応などではかなり職権主義的です。また、証拠能力に関する判断は、裁判官の裁量に委ねられる部分が大きく、公正さの他、真実を明らかにするために資するかどうかの配慮がなされます。

・ICCでは日本の司法制度のように高等裁判所や上告といった仕組みはありますか?

ICCは二審制で、上訴は一回です。予審あるいは第1審部は3名の裁判官、上訴審は5名の裁判官で構成されています。

・日本の検察でも、大川原化工機事件のような事態を起こしました。ICCにおける誤った判断を防止する仕組みはどのようになっているのでしょうか。

ICCにも、再審の制度はあります(ローマ規程84条)。しかし、要件は厳しく、今までこれが使われたことはありません。また、被疑者・被告人に対する補償制度もあります(ローマ規程85条)が、日本のように無罪であればほぼ確実に補償がなされる制度ではなく、ICC側によほど大きな落ち度がないと補償されないので、ローマ規程の被疑者・被告人に対する補償制度は不十分です(ローマ規程を作る際、日本は補償制度の充実をかなり主張しましたが、他の国の反対にあい、聞き入れてもらえませんでした。)。

・実際に有罪になった人はどうなりますか?

・刑が確定した後、どこのどういう機関が執行しますか。

・判決が出た後、拘禁する場合はどの施設が担当するのですか。

ICCと刑の執行に関して協定を結んでいる国と有罪になった人との間で協議をして、どこで執行するかを決めて、そこに身柄を送ってその国の刑務所で刑の執行がなされます。

具体的には、ヨーロッパのいくつかの国、アフリカ、中南米のいくつかの国では既に協定が結ばれています。また、有罪になった人の出身国がICCとの間に協定を結んでいない場合であっても、その人に限り刑の執行を担当すると協定を結んで、その人の刑を執行してもらうこともでき、そうした形で自国で刑の執行を受けた人もいます。

・拘禁刑が下された場合には、判決までの身柄拘束期間は通算されるのでしょうか?

ICCにおける身柄拘束期間全部が必要的通算となっています(ローマ規程78条2項)。それ以前の身柄拘束期間は任意的に通算することも可能です(同前)。

・裁判後の処遇はどうなっているのですか?

刑を執行する場所を決める手続に入ります。あらかじめICCと刑の執行に関して協定を結んでいる国、有罪になった人が刑の執行を受けたい国とのすり合わせなどを行って、最終的に合意を得た国に送ってその国の刑務所での刑の執行を受けてもらいます。

・裁判にて決まった刑はどこの国にて行っているのでしょうか。刑を執行する国の法制度と、ICCが出した判決が抵触するようなことは起きないのでしょうか。

刑の執行をどこで受けさせるかを決める過程で、候補国の刑務所の状況などを調べ、その国での執行に支障がないかどうかを決めます。その国では、ICCで決めた刑の執行をするのみなので、多くの場合には法制度の問題は起きないと理解しています。

・ICCはローマ規程の締約国からの分担拠出金で運営されているということですが、その金額は、どのように決まっているのですか?

毎年7月下旬までに、ICC側から締約国に次年度(ICCの場合は、1月1日から12月31日が会計年度)の予算要求書を提出します。

これに対し、予算及び財務に関する委員会(Committee on Budget and Finance、締約国で作る技術的な点を審査して締約国会議にアドバイスをする専門委員会)の審査を経た後、12月の締約国会議(年次総会)で決定することにより、成立します。

その過程で、多くの締約国との協議が必要です。

・ICCの予算や財務諸表は公開されていますか?

ICCの予算に関しては完全な透明性を持って決めたり、執行したりしています。予算は公開されていますし、その執行に関しても内部的・外部的な監査を経てそれらが公開されています。

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