7月29日に開催した講演会では、事前・当日ともに多数の質問が寄せられました。
時間の制約で当日回答できなかった質問につき、赤根所長に可能な範囲でご回答をいただきました。
まずは、ICCについての質問です。たくさんお寄せいただきましたので、2回に分けて掲載します。
なぜICCはオランダにあるのですか?
ICCがオランダにあることによる、オランダの役割はなんですか?
オランダにICCがあることにより、オランダにデメリット、メリットはありますか?
オランダは、国際法の父といわれるグローティウスを輩出した国ですし、ハーグは国際法の都、とか、国際法と平和・正義の都市といわれ、ICCだけではなく、ICJ―国際司法裁判所ーなど他の国際裁判所もあります。そういうこともあって、ICCを招聘したのではないでしょうか。オランダにとっては、メリットだけだと思います。それによって、名が知られ、尊敬されますし、これらの裁判所で働く人などで賑わうことで、経済的利益にも繋がります。
よくICCで裁判される罪はどのようなものですか?
戦争犯罪の中の市民に対する攻撃、特に殺人、あるいは違法な拘束や戦争捕虜に対する虐待、子どもを兵士として戦闘行為に使うことなどがよく捜査・裁判の対象となります。
有罪になった人はどこの国の刑務所に行くのですか?
基本的には、有罪人を受け入れるとして、ICCと協定を結んでいる国と有罪になった人とのマッチングで決めます。両者がOKと言ったときにその国に送って刑を受けさせます。
日本人の所長がいることにより、日本にメリットはありますか?
何をもってメリットと言うかにもよりますが、私は日本の皆さんに日本語でICCの意義や法の支配の大切さを言うことができるメリットを感じています。
どの国の言語で議論するのですか?
基本的には英語かフランス語です。
給料はどこから支払われ、どのように算定されているのでしょうか?出身国によって給料に差が生じることはありますか?
給料はICC自体からです。ICCの締約国(加盟国)が締約国会議で決まった予算を分担してICCの予算として払い込みますが、そこからいただきます。給料は、国連基準で決まっています。出身国の基準ではないです。
国際司法裁判所のように国を裁くのではなく、個人を裁く利点は何でしょうか。
国際司法裁判所のように国と国との本的問題を裁くほか、個人の犯罪を処罰する裁判所があって初めて、戦争犯罪などに正しく対処できると考えられたからです。例えば戦争は国と国の問題ではありますが、戦争中に戦争犯罪を犯すのは人だからです(戦争すること自体は犯罪とはされておらず、戦争をする際のルールを守らないで例えば武器を持たない市民を殺すことは戦争犯罪になると言った具合です。)。
戦争犯罪や人道に対する罪を犯した「個人」を直接裁くことで、国際犯罪の抑止と正義の実現を目指す事の世界的、歴史的な重要性、日本についての意味合いについて教えて下さい。
これは歴史を20世紀初頭に戻して細かく説明しなくてはならず、簡単な答えを出すのはかえって危険であるかもしれません。戦争などを起こすのは結局のところ人であり、特定の人が戦争犯罪等を犯すことを考えるとそうした個人の刑事処罰も必要と考えられるようになったわけです。日本の場合には東京裁判に遡りますが、そうしたことを経て、ICCという恒久的な国際刑事法廷ができたことを踏まえて日本との関わりを考えていく必要があります。ご自分でも調べて考えてみてください。
国によって正義は違うと思います。ICCは何を正しいと考えて裁判をしているのでしょうか。
ローマ規程は多くの国が関与して作り上げた条約であり、法的枠組みで、それを持って規範としています。多くの国々や地域に共通の基本的価値にもとづいて罪が定められ、その訴追処罰に至る手続きが決められています。ここの事件では、それぞれ独立した裁判官の合議によって偏りのないように慎重に決めていくのです。
ICCの逮捕状請求は非公開にできると耳にしたのですが、イスラエルのネタニヤフ首相に対しての逮捕状を非公開にしなかった理由は何があるのでしょうか。
正確に言うと、逮捕状自体は公開されておらず、逮捕状が出たことだけが公開されています。ですから、公開にされる場合の被害者らに生じるかもしれない危険などについては配慮されています。公開するか否かは逮捕状を出す裁判官たちの判断に委ねられます。進行中の犯罪とその被疑者を公開することによって、得られる利益と失う利益を考慮したものと思いますが、それは私が出したものではないので、詳細まではわかりません。
ICCは執行機関を持たないということでしたが、身柄の拘束は誰が行っているのですか。
実際には逮捕状によって逮捕されるべき人がいるとわかった時点でその国に連絡して身柄拘束をしてもらうことが多いです。その国がローマ規程の締約国の場合には、その国にはローマ規程上、身柄拘束義務があります。
ICCの課題としてよく、独自の執行機関を持たないことによる執行力の欠如が挙げられますが、なぜ独自の執行機関を作らないのでしょうか。執行機関の設置を難しくしている要因として何が挙げられますか。
世界政府というものが存在せず、主権国家の集まりで世界が成り立っているので、強制力を持つ執行機関をICCが独自で持つことは難しいです。ですから、締約国にローマ規程上の協力義務を設け、その協力を得る努力を最大限していくしかないのです。
執行機関を持たないICCにおいて、非締約国や大国が関与する事案での「実効性の確保」と「政治的中立性の維持」のジレンマに、所長としてどのように向き合われていますか。
実効性の確保と政治的中立の確保の問題は、世界政治の中で議論で、法律の世界ではジレンマはありません。我々はローマ規程の許す範囲内での捜査や訴追を行うだけで、それは常に中立な裁判官により判断されています。
国際社会の分断が進む中で、ICCの判決や逮捕状の「権威」を担保するために、今最も必要なゲームチェンジャーは何だとお考えでしょうか。
私はなにか特別なものがあれば解決できるとは考えず、地道な捜査や訴追活動により、徐々に国々やそれらの国民に納得してもらうことしかないと思っています。手間や時間がかかりますが、それこそが法の支配の真髄であると思います。
ICCの令状や判決の「強制執行」のことに関し、究極的に、国連憲章第7章などのような、戦争による強制執行が可能であるシステムや制度の保有が望ましいと考えていますか?(法の支配を実現させるためには、力による保障が究極的に必要不可欠であると考えていますか?)
今の段階では、世界政府もなく、また、全国連加盟国がICCの締約国になっているわけでもない(125か国)状況である。その段階では、締約国の協力がなければ執行できない仕組みというのは、現実路線としては妥当だと考えている。まずはさらに多くの国々が参加するよう締約国やICCが努力していくべき段階と考えている。簡単に答えを出してしまうことは返って対立を深め、実効性を損なうことにもつながりかねないと考えている。
ICCの継続には多大な財政的負担に加え、各締約国の協力など様々な支えが必要であるにもかかわらず、ICCを維持し続けることにはどのような意義があるとお考えですか。
日本の100兆円を超える予算と比較すると日本の資金拠出45,6億円がさほど大きい額とは思えない(ミサイル1発は数億円から数十億円かかる)。それにより、日本は世界の法の支配に多大な貢献ができている。ルールによる世界の正義への貢献、世界で起きているもっとも重大な犯罪の処罰と抑止は国家的かつ国際的重要課題の一つであろう。
近年では締約国による協力不足などが課題として指摘されていますが、ICCの実効性を高めるためには、今後まず何に取り組むべきだとお考えでしょうか。
私は、地道な実務の積み重ねによって、ICCがより多くの国々、人々から信頼される国際裁判所に発展していくことだと確信しています。それにはある程度長い時間が必要、一朝一夕にできるものとは考えていない。
なぜアジアではICCの加盟が少ないのでしょうか。とくに東南アジアが気になりました。
まずは、ICCが余り知られていないこと、理解が進んでいないことです。日本や日本人の努力でもっと身近に感じてもらえることが重要です。
「天網恢恢疎にして漏らさず」とおっしゃっていましたが、大国に実効性のある措置について、なにかビジョンはあるのでしょうか。
大国がICCの存在に脅威を感じているのは、具体的な実効性の存在(例えばその人物が将来逮捕されないとは限らないという懸念を持つ)の裏腹と考えています。正義はすぐにではなくともいつかはなされる、私たちはそれを信じて黙々と働くのみ、という意味です。
国際社会においてICCが役割を果たすためには、まず締約国による協力が必要不可欠ですが、締約国以外の大国(アメリカやロシアなど)からの理解・協力も必要になってくると思います。ICCはそのような国に対し、どのようなアプローチを行っていく予定なのでしょうか。
我々は基本的には非締約国との積極的な対話はしません。彼らが締約国会議などでの発言をする機会もあり、相手が望めば会談をすることもあります。大国から一方的に力による圧迫を避けるためです。
ICCが実行力を持つためには、全ての国にいる人たちが平和について強い気持ちを持ち、適切な道徳観を持ち合わせることが大事なのかなと思います。日本の教育や世界の教育でその点についてもっとすべきことがあるのならば、ICC所長の視点から見て何をすべきだとお考えでしょうか。
確かに若い人たちへの教育の過程は極めて重要です。国際刑事裁判所がどのようなところで、どこに利点と弱点があるかなどをしっかりと教えるとともに、何故そのような裁判所が必要なのか、最終的に国際刑事裁判所は平和のために何らの役割を果たしているのかなどをみんなで考え続けていく態度が欠かせません。教育現場にも期待しています。

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